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トロント・インナーシティにおけるコンドミニアムの急増と施策

発表形態:
一般講演(学術講演を含む)
主要業績:
主要業績
単著・共著:
単著
発表年月:
2010年11月
DOI:
会議属性:
国内会議
査読:
無し
リンク情報:

日本語フィールド

著者:
山下宗利 読み: やましたむねとし
題名:
トロント・インナーシティにおけるコンドミニアムの急増と施策
発表情報:
2010年人文地理学会大会 ページ: 100-101
キーワード:
コンドミニアム、土地利用、ジェントリフィケーション、インナーシティ、トロント
概要:
本研究ではトロントの都心周辺部におけるコンドミニアムの建設ラッシュが、経済のグローバル化の進展にともなって、市や州政府の施策と深く関わっていることを示した。この地域変容は都心周辺部に留まらず、トロント市域全体に影響を及ぼしつつあり、明確な地域分化をもたらす要因と考えられる。
抄録:
 1980年代に始まった経済不況の後、1990年代中頃からトロントでは都心周辺部のインナーシティにおいて不動産投資が活発となり、空前の「コンドミニアムブーム」が今日まで継続している。低密度の戸建て住宅地の開発という郊外化が進展する一方で、インナーシティでは高層のコンドミニアムが林立して景観を急変させてきた。  市街地の再生に関しては、商業的な都市再開発、現住者の格上げ、ジェントリフィケーションの三つがある。都心周辺部におけるこの「コンドミニアムブーム」に対して、多角的な視点から数多くの研究がなされ、主にジェントリフィケーションとして地域の変容が追究されてきた(Hackworth and Smith 2001、Florida 2002、Lehrer 2008)。  ジェントリフィケーションは1960年代に顕著となったロンドンのインナーシティの社会空間的な変容がそもそもの始まりであるとされ(Glass 1964)、「旧来の労働者階級の近隣住区への中・高所得者階級による侵入現象」を指す(Hamnett 1973)。この変容には、民間資本による家屋の修復や保存事業によって、住宅地が格上げされる過程が含まれ、また人々の居住地移動とともに資本の移動が伴っていることが特徴である。  ところでHulchanski(2007)は、所得の地域間格差の拡大により、1970年以降の30年間にトロントが三つの地域(局在した富裕層の住宅地区、縮小しつつある中間層の住宅地区、そして貧困度が増しつつあるトロント市縁辺部のインナーサバーブ)に分化しつつあることを明らかにしている。所得の分極化が著しく進展し、都心周辺部においてはその再生が明確に示されている。この流れは地域の再活性化を反映したものであるとされる。  トロントは「多文化」や「民族の多様性」、「社会的モザイク」といった修飾語が付けられてきた。トロント市やオンタリオ州政府の施策にはこれらの概念が基本にあり、公共交通網の整備や住宅政策には社会的弱者への配慮があった。しかしながら新自由主義の台頭とともに表面上は従来の方向性を示しながらも、現状では民間活力の導入によってコンドミニアムブームが起こり、ジェントリフィケーションが進行している。  本研究はトロント・インナーシティの現状を把握した上で、コンドミニアムの建設ラッシュとトロント市の施策との関連を明らかにすることを目的とする。  研究対象地域はキング・スパダイナ地区であり、ここは都心の金融街の西隣に位置する。対象地区の中央を東西に走るキングストリート(king St. West)及び北端のクィーンストリート(Queen St. West)、そして南北に走るスパダイナアベニュー(Spadina Ave.)がメインストリートである。いずれも路面電車が運行されている。  この地区の東部にはミュージカル劇場が建ち並び、多数の飲食店が集積してエンターテイメント地区としての賑わいをみせる。またスパダイナアベニュー周辺はかつては中華街が展開していたが、近年ではベトナム系の店舗が増えつつある。スパダイナアベニューの西側では、キング及びクィーンストリートはファッションストリートに変化し、ブランド店、各種雑貨店が連担する。従来よりキング及びクィーンストリート沿いには短冊形の敷地割りが展開し、小規模な店舗が軒を並べていた。現在でも多くの商店がメインストリート沿いに連担する景観は変わっていないが、間口の大きな店舗が増加し、新たな店舗の侵入があり、この地区の価値が上昇していることが看取できる。  キングストリートに沿って西に向かうにつれて、またこれらメインストリートから逸れると、対象地域は工業地区としての性格を帯びてくる。低中層のレンガ造りの建物が多くなる。南側には鉄道線路が走り、貨物用地が広がるグレイフィールドであったが、ここでもコンドミニアムの建設が盛んである。  総計162棟の大規模建物(2008年にトロント市都市計画課に提出された6階建て以上の住居用建物、もしくは非住居面積1,000m2以上の建物)の建築確認申請を基に、建物ごとの所在地、住居面積、非住居面積、全床面積、部屋数、階数等のデータベースを作成した。非住居用の大規模建物は34棟(20.7%)に過ぎず、残りの128棟は住宅を合わせ持っていた。128棟の住居用大規模建物についてみると、51棟は住居専用建物であった。部屋数の最大値、平均値はそれぞれ1,410部屋、233.9部屋であった。このように多くの新規の大規模建物は住宅を主用途に、他に商業施設を何らかの形で含んだ複合用途建物が主であることがわかる。  図1は上記162棟の大規模建物の分布を示したものである。2008年におけるトロント市における大規模建物は都心部とその周辺部、そしてトロント市の北部に偏在していることが看取される。とりわけ住居用コンドミニアムは都心周辺部に集積し、都心から約10kmの地域では疎らになり、縁辺部において再び建設が活発であるといえる。一方、非住居用の大規模建物は事務所や大規模小売店、飲食店、そしてこれらの複合用途から構成されており、都心周辺部への集積はコンドミニアムほど明確ではない。  トロント大都市圏では郊外への住居と商業施設の移動の後、1980年代に入るとオフィスの郊外化も顕著となり、トロント市の衰退が現れ出した。トロント市および州政府はその対策としてトロント既成市街地の再活性化策を打ち立てた。これは都心部とともに疲弊が著しかった都心周辺部の再生を目指すものであった。「民族の多様性」といった社会的モザイクの維持を図るものであった。  しかし不況により州政府の補助金はカットされ、都心周辺部への労働者階級向けの住宅供給は頓挫した。1994年に当時のホール市長は従来の方針を転換し、キングストリート周辺に広がっていた工場や工場跡地を複合用途地域に用途変更し、開発を促した。この結果、経済のグローバル化の進展とともに資本が流入し、民間活力を導入した都心周辺部の変容が急激に生じたのである。  州のスマートグロース政策"Places to Grow"(2006)は、選択と集中により資本の投下先を決定するものであり、ここでは郊外開発の抑制と既成市街地の再活性化が目標として掲げられた。さらにトロント市の施策には持続可能な成長戦略の一つとして「創造型産業 creative industry」が強く期待されるようになった。トロント都心部及びその周辺部では大規模な高級コンドミニアムとともにスポーツ施設、劇場ホール、商業施設の新規立地や改築が続き、これらが「国際都市」トロントの顔となりつつある。  本研究ではトロントの都心周辺部におけるコンドミニアムの建設ラッシュが、経済のグローバル化の進展にともなって、市や州政府の施策と深く関わっていることを示した。この地域変容は都心周辺部に留まらず、トロント市域全体に影響を及ぼしつつあり、明確な地域分化をもたらす要因と考えられる。

英語フィールド

Author:
YAMASHITA, Munetoshi
Title:
Condominium boom and policies for urban development in Toronto's inner city.
Announcement information:
2010 Annual Meeting of The Human Geographical Society of Japan Page: 100-101
Keyword:
condominium, land use, gentrification, inner city, Toronto


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